移住者と連帯する全国ネットワークによる意見
[【パブコメ】「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」に対する意見を提出しました
] 2022年8月29日
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- 1. 該当箇所:「全体に関わる意見-ガイドライン案が掲げる『例』について」
意見内容:
本ガイドライン案に盛り込まれた「例」において、取り組みを担う主体として、たとえば「発注元企業は」などと具体的に明示すべきである。
理由:
本ガイドライン案は、項目毎に「例」を提示し、企業に対して求める取り組みの内容を具体的に明示している。
しかし、多くの「例」において、その取り組みを行う主体が明示されていない。たとえば、技能実習生に関連する「例」は、15頁、18頁、20頁、23頁、26頁に提示されている。これらの「例」のうち、23頁の「例」において「技能実習生を受け入れている企業は」と主体が明示されている以外は、いずれの「例」においても、主体が明示されていない。このような「例」の提示の仕方は、具体的に誰が取り組みを行うべきなのかが判然とせず、そのために、本ガイドラインが有効に活用されないことが懸念される。
本ガイドライン案は、サプライチェーン全体において、人権への負の影響を特定し、それを評価し防止・軽減・救済などのために活用されるべきものと理解している(本ガイドライン案1.2 &1.3参照)。
そのような趣旨から、本ガイドライン案において掲げる「例」において、それぞれの取り組みを実施する主体(たとえば、「発注元企業は」など)を明示すべきである。
- 2. 該当箇所:「4.1.2.2 脆弱な立場にあるステークホルダー」
意見内容:
以下、「特別な注意を払うことが望ましい」を「特別な注意を払うべきである」に文言を修正する。
人権への負の影響の評価に当たっては、脆弱な立場に置かれ得る個人、すなわち、社会的に弱い立場に置かれ又は排除されるリスクが高くなり得る集団や民族に属する個人への潜在的な負の影響に特別な注意を払うべきである。
さらに、以下、太字部分を加える:
個別具体的に検討する必要があるものの、例えば、外国人、女性や若者、子ども、障害者、先住民族、民族的、種族的、宗教的又は言語的少数者は、脆弱な立場に置かれること
が多い。これらの属性は重複することがあり(例:外国人の女性、外国人の若者)、その場合には脆弱性がさらに強まり得ることに留意が必要である。とりわけ近年、外国人の女性労働者が雇用を継続しながら妊娠・出産を経験することをはじめとするリプロダクティブヘルス・ライツの保障が重要な課題として浮かび上がってきている。
例:女性の技能実習生を雇用する企業等において、受け入れた技能実習生に対して、妊娠・出産したからといって意に反して帰国する必要はなく、妊娠・出産をする権利は法的に保障されていること、また、さまざまな母子保健法上のサポートや健康保険等による給付があることなど、必要な情報を提供する。さらに、受入れ企業等が、技能実習生の妊娠・出産を受け容れる姿勢を明確に伝える。
理由:
・該当箇所に付記されている脚注48の「国連指導原則18」の解説では、「特別な注意を払うべきである」(should pay special attention)とされている。「望ましい」との記述は誤訳であり、指導原則が力点を置く課題を薄めてしまうものである。また、本ガイドライン案の英語(仮訳版)でも、it is desirable to pay special attention to potential adverse impacts on vulnerable individuals と訳されており、shouldがdesirableに置き換わり、国際基準が改ざんされた表現になっている。国際基準に基づいた表現に修正すべきである。
・外国人の若者について:
2020年の国勢調査結果から、15歳から19歳の労働力状態をみると、日本人では「主に仕事」が5.7%であるのに対して、外国人では13.9%と高くなっている。これは、日本人に比べて、外国人は、若年で労働市場に参入している確率が高いということである。労働者としての権利を十分に理解していない可能性も高く、権利が侵害されやすい脆弱な立場であることに留意が必要である。
ベトナム人が47.3%と著しく高くなっているのは、恐らく技能実習生であると推測される。ブラジル人、フィリピン人もそれぞれ14.8%と12.5%と高いが、在留外国人統計等に照らしてみると、両者は恐らく、就労に制限のない在留資格をもち、今後も日本に滞在・就労する可能性が高いと類推される。
また、国勢調査で15歳から19歳の若者の最終学歴をみると、最終学歴が小学校、中学校、あるいは未就学の者の割合が、外国人の場合それぞれ0.2%、5.0%、0.3%(フィリピン人:0.5%、10.4%、0.3%;ブラジル人:0.6%、11.4%、0.5%)と日本人(0.0%、1.4%、0.0%)と比べて高いことからも、脆弱な立場であることが推測される。
・外国人女性のリプロダクティブヘルス・ライツについて:
2020年度の育休取得率は81.6%(雇用均等基本調査)であるが、これは、出産時に在職している者を母数としており、出産前に退職した者は含まれていない。就業継続を希望しながらも、出産前に退職する(せざるをえない)女性はいまだ多く(大和総研の調査によれば、出産ベースの育休取得率は45.6%)、女性が就業継続しながら、出産育児を行うための環境をいかに整えていくかは。いまだ大きな課題である。
2020年の国勢調査結果によれば、15歳から34歳の外国人女性の労働力状態をみると41.3%が「主に仕事」であり、日本で妊娠を経験する外国人女性も少なくないと思われる。在留資格によっては産休や育休をとることが容易でなかったり、不安定な間接雇用であったり、両立支援制度が整っていない中小零細企業で働く外国人女性が多いこと、あるいは妊娠出産に係る権利についての知識が十分でないなど、リプロダクティブヘルス・ライツが侵害されやすい脆弱な立場であることに留意が必要である。
移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)が2021年5月から6月にかけて、全国各地の支援者、支援団体から収集した妊娠・出産・育児に関する58ケースの分析によると、とりわけ技能実習生の多くが妊娠・出産に関してなんらかの制約を受けており、制約しているのは、送出し機関・監理団体・受入れ機関であることが判明している。なかには、中絶か帰国を迫られたケースもあった。
そのように、女性の技能実習生は、送出し機関等から「妊娠したら技能実習は継続できず、帰国しなければならない」などと言われてきており、その結果、妊娠した事実を隠したまま已むなく自宅出産し、嬰児を遺棄して保護責任者遺棄罪に問われたり、死産後に保管していたところを死体遺棄罪に問われるなどの事件につながっている。また、妊娠した事実が実習実施者や監理団体にわかってしまい、無理やり強制帰国させられるケースもある。このほか、あまり表立ってはいないが、母国から中絶用の薬剤を用意して意に反する中絶に及ぶこともあると思われる。
技能実習生をはじめとする移民女性の妊娠・出産・育児に関する権利に関して、当事者はもとより、雇用企業をはじめサプライチェーン上の企業・機関に対して周知するとともに、移民女性の権利保護の徹底を図ることが重要である。企業が技能実習生に対して、妊娠した場合の法的な保護や母子保健法上のサポートなど、必要な情報を提供するとともに、企業がそうした事態を受け容れる姿勢を明確にすることが大切である。
- 3. 該当箇所:「4.2.3 構造的問題への対処」
意見内容:
ガイドライン案による「構造的問題」の定義によれば、「企業による制御可能な範囲を超える社会問題等」とされている。しかし同案では、構造的問題の範囲が、「社会レベル」のものに限定されているようにも読める。その結果、国の政策に基づく「制度レベル」の問題が、同案の「構造的問題」に含まれるのかどうか、必ずしも明らかではない。
他方、「社会レベル」の構造的問題の背景に「制度レベル」の構造的問題が存在する可能性は否定できない。また、「制度レベル」の構造的問題が引き起こす「社会レベル」の構造的問題については、制度を設計する政府自体に第一義的な責任があるのであり、いわば制度の欠陥について企業の責任として取り組むよう期待することは、まったく本末転倒となる。
従って、構造的問題として「制度レベル」も含まれることを明らかにした上で、「人権を保護する政府の義務」として取り組むべきことと、「人権を尊重する企業の責任」として取り組むべきことについて明確に意識した上で、「社会レベル」の構造的問題と「制度レベル」の構造的問題の密接な関連性を踏まえて、両者を截然と分けることはできず、その関係性を分析しながら一体的に議論することが求められる。
理由:
本ガイドライン案における例示として、技能実習制度に関わる問題が多く取り上げられているので、同制度に着目しながら上記意見について敷衍してみたい。
(1) 「制度レベル」の構造的問題
技能実習制度は技能等の移転を目的としているため、基本的に「転職の自由」がない。このため労使の力関係において非対称性が非常に強まり、使用者が恣意的に振る舞うことが容易となり、人権侵害が起きやすい環境が作られている。その結果、暴言・暴力等が頻発したり、何らかの問題があっても技能実習生が正当な権利主張をすることが困難となっている。従って、基本的に「転職の自由」が認められる制度に転換していくことが不可欠となっている。
こうした制度的な問題は、国の政策変更によってしか解決できないものであり、こうした点を放置したまま、「可能な限り、企業においても取組を進めることが期待される」などというのでは、「人権を保護する政府の義務」が果たされているとは言えない。
(2) 「社会レベル」の構造的問題
① 技能実習生が多額の費用を支払って来日している実態があり、今年に入り政府においても調査を実施するなど、やっと本格的な取組みの第一歩を踏み始めている。特にベトナムに関しては、今年5月1日の岸田首相とベトナム首相との合意を踏まえて、送出し機関や送出し国の悪質な仲介業者への規制を強めようとして、具体的なプロジェクトのスタートを目指していることは歓迎したい。
しかし、この新たな取組みも、日本が批准しているILO第181号「民間職業仲介事業所条約」に謳われている「民間職業仲介事業所は、労働者からいかなる手数料又は経費についてもその全部又は一部を直接又は間接に徴収してはならない」という条項に、実態的には抵触する状況を克服することにはなっていない。
すなわち、技能実習法施行規則第10条第2項第6号ニにおいて、技能実習生が送出し機関等に「支払う費用につき、その額及び内訳を十分に理解してこれらの機関との間で合意していること」とされており、つまり日本政府自体が、送出し機関等による技能実習生からの手数料や経費等の徴収を認めているのである。
この点に関して、厚生労働省は、ベトナムがILO第181号を批准していないことを踏まえ、「技能実習での外国の取次送出機関や準備機関は、その国の労働者から手数料・経費等を徴収できることとなっているが、批准国の国内で適用されるこの条約には必ずしも抵触するものではない」として、こうした実態を追認している。
他方、このような「制度レベル」の構造的問題に対して、企業が「社会レベル」において解決を図ろうとしている例がある。
すなわち、帝人フロンティアグループにおいては、グループ会社各社での技能実習生の受入れについて監理団体を1社に統一した上で、2020年4月より技能実習生に手数料負担をさせず、実習実施者が負担することとしている。
このような取組みについては、制度的な困難がある中でもその解決を図ろうとしているものとして、「構造的問題への対処」の好事例として例示してもよいのではないか。
② 技能実習生が低賃金で働かされているという指摘は絶えない。実際、技能実習生の賃金は、多くの場合、地域の最低賃金に張り付いている。加えて、時給400円での時間外労働など、賃金不払いも多い。これはまさに「社会レベル」の構造的問題と考えられる。
しかし、技能実習生を受け入れる企業等が、このように技能実習生を低賃金で働かせたり、賃金不払いを行う背景には、実習実施者が賃金以外に多くの負担をせざるを得ない構造があり、それを許容している政策、すなわち「制度レベル」の構造的問題が存在する。
つまり、技能実習の98%以上を占める団体監理型の受入れにおいては、実習実施者はかなりの額の監理費を毎月、監理団体に支払わなければならない。2021年に外国人技能実習機構が行った調査では、実習実施者は、初期費用や不定期費用を支払うほか、毎月技能実習生一人当たりで監理団体に支払う監理費は、平均3万円前後となっている。
この監理費は、技能実習法において監理団体が技能実習制度の健全な運営を支える中核的な役割を果たすべきこととされ、それに伴う必要経費として認められているのである。他方、実習実施者は、監理費のほか、技能実習生の宿泊施設を用意するなど、通常に労働者を雇用する場合には必要のない多くの経費を負担せざるを得ないこととなっている。
こうした負担が、結局、受け入れた技能実習生に転嫁されることにより、低賃金・賃金不払い・賃金からの不当な控除などにつながっている。つまり、技能実習制度の制度設計自体に、「社会レベル」の構造的問題の背景が存在しているのである。
このような状況を踏まえれば、企業に「社会レベル」の構造的問題の解決を要請するだけでは問題の解決にならないことは自明である。
③ このほか、技能実習制度における「社会レベル」の構造的問題として、技能実習生が権利主張した場合に行なわれることが多い強制帰国の問題もある。実際に強制帰国が行われなくても、日常的に「帰国させるぞ」という脅し文句として使われ、正当な権利主張ができない状況が生まれ、人権侵害につながっている。
政府は、強制帰国に対して2016年9月より、途中帰国する技能実習生に対して意思確認票を使って、途中帰国が本人の意思に基づくものかどうかを確認する手続きをとっている。しかし、強制帰国、すなわち技能実習生の意思に反した帰国であると申告する者は、年間20件前後にとどまり、あまり効果を上げていない。
他方、強制帰国に関しては、技能実習法制定以前からつとに指摘されてきていたにもかかわらず、技能実習法自体においては一切触れられていない。同法案作成に至る過程でも、強制帰国に関して検討された形跡はみられない。
つまり、強制帰国に関しては、政府が制度的な対応を怠ったことが、「社会レベル」の構造的問題として継続してしまうことにつながっている。従って、強制帰国の問題は、法の欠缺という、消極的な意味での「制度レベル」の構造的問題であると言えよう。
(3) 以上みてきたように、「社会レベル」の構造的問題と「制度レベル」の構造的問題は、密接に関係しているのであり、両者を截然と分けることはできず、その関係性を分析しながら一体的に議論することが求められる。
4. 該当箇所:「5.1苦情処理メカニズム」
意見内容:
(1) ①関係者の出頭確保措置(下記2(1)ア)及び、②解決案に対する履行報告義務(下記2(1)イ)の二点を要件として追加すべきである。
(2) 「5.救済(各論)」の「例」として挙げられている「自社において、技能実習生との合意に基づかない家賃や光熱水費の天引きが行われていたり、夜間労働に係る割増賃金の支払いが適切に行われていなかったりしたことが発覚したことを受け、天引きについて丁寧な説明を実施した上で技能実習生の自由意思に基づく承諾を得るとともに、未払金を即座に支払う」という部分について、「サプライチェーン内部において技能実習生を雇用する企業で、〔「例」で掲げられているような〕労基法違反の事例が確認された場合、発注元企業は発注先企業との間で速やかに対話を実施し、法令違反に対する是正を求めるとともに、改善のための報告を求める」という内容の文を追加すべきである。
理由:
(1) 意見内容⑴について
本ガイドライン案は、国連指導原則31を参照し、企業に対して、苦情処理メカニズムを確立するか、又は、業界団体等が設置する苦情処理メカニズムに参加することを求めている。
本ガイドライン案で求めている苦情処理メカニズムの要件は、国連指導原則31が掲げているものにとどまっていて、本ガイドライン案が定める苦情処理メカニズムの要件を満たしたとしても、苦情処理メカニズムがその目的とする「人権尊重責任の重要な要素である救済」を達成できないことが懸念される。すなわち、プロセスとしての「苦情処理メカニズム」が整備されていたとしても、それが実効的な救済に繋がらなければ、端的には、「役に立たない制度」として活用されなくなってしまう可能性がある。
実効的な制度として活用されるためには、少なくとも、①関係者の出頭確保措置(下記ア)及び、②解決案に対する履行報告義務(下記イ)の二点が確保されなければならない。
ア 関係者の出頭確保措置
① 企業内における苦情処理メカニズムの場合
ある企業において苦情処理メカニズムが確立されていたとしても、苦情申立人の相手方を含めた関係者の出頭が確保されないのであれば、本ガイドラインが苦情処理メカニズムに対して求める「対話」は始まらない。
そこで、苦情処理メカニズムが満たすべき要件として、当該苦情処理メカニズムの運営者が、苦情申立人の相手方を含めた関係者に対してヒアリング等の調査を実施する期間及び期限を設定していることを求めるべきである。
この点は、本ガイドライン案が苦情処理メカニズムの要件として求める予測可能性とも関連するところである。もっとも、本ガイドライン案において「予測可能性」は、当該手続に要する期間にのみ焦点が当てられているものと思われる。そのため、別途、実効性確保のための要件として、上記の事項が定められるべきである。
② 企業外における苦情処理メカニズムの場合
ある企業が業界団体等の設置する苦情処理メカニズムに参加していて、当該企業において就労する労働者が当該苦情処理メカニズムを利用したとしても、当該企業が実際の苦情処理メカニズムに出頭しなければ、本ガイドラインが苦情処理メカニズムに対して求める「対話」は始まらない。
上記①において述べた企業内における出頭の確保と異なり、企業外における苦情処理メカニズムにおいては、当該苦情処理メカニズムの運営者が実施するヒアリング等に苦情申立人の相手方等の関係者の出頭確保が、より重要になる。たとえば、労働関連紛争では、紛争調整委員会が実施するあっせん(個別労働紛争解決促進法5条)において紛争当事者の一方が不参加であった割合が、2021(令和3)年度において40.4%にのぼっている(厚生労働省2021年7月1日公表「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」//www.mhlw.go.jp/content/11909000/000959370.pdf)ことからすると、約半数が、申立てがあったにもかかわらず手続を実施できずに終結してしまっている。
そこで、本ガイドライン案が指向する苦情処理メカニズムにおいても、苦情申立人の相手方等の関係者の出頭確保が、救済の実効性確保の前提として必要となる。
上記①においては、実効性確保のための要件として、ヒアリング等の調査を実施する期間及び期限を定めるべきことを記載した。ある企業内における苦情処理メカニズムにおいては、出頭しなかった場合における制裁を観念できるために、そのような要件でも十分に実効性を確保できるものと考えられるが、企業外における苦情処理メカニズムでは、より厳格な出頭確保措置を設けることが求められる。たとえば、苦情申立人の相手方である企業が正当な理由なく出頭しなかった場合には、苦情処理メカニズムの運営者が、当該企業が出頭しなかったことを公表したり、当該苦情処理メカニズムから離脱を求めることができるようにするシステムとすることが考えられる。
イ 解決案に対する履行報告義務
苦情処理メカニズムの運営者が、苦情申立人や苦情申立人の相手方等関係者からヒアリング等を実施した結果、苦情申立人に有利な心証を得、具体的な解決案を提示したとしても、それに苦情申立人の相手方が従わなければ、実際の紛争解決には至らない。
そこで、苦情処理メカニズムの要件として、解決案の履行状況の報告義務を課すことが考えられる。
(2) 意見内容⑵について-ハードロー違反を具体例として掲げることの問題点
本ガイドライン案「5. 救済(各論)」においては、「自社において、技能実習生との合意に基づかない家賃や光熱水費の天引きが行われていたり、夜間労働に係る割増賃金の支払いが適切に行われていなかったりしたことが発覚したことを受け、天引きについて丁寧な説明を実施した上で技能実習生の自由意思に基づく承諾を得るとともに、未払金を即座に支払う。」ということが、救済の「例」として挙げられている。
もっとも、上記の「例」は、明白な労働基準法違反であって(合意に基づかない天引きは同法24条1項、割増賃金の未払は同法37条4項)、そのような違法行為を是正するのは、当該企業の責務として当然である。そのような違法行為が放置されていることは当然問題であるが、放置されてしまっているのが現状なのである。現に、約7割の実習実施者において労基法違反が認められているのであって(令和2年度の「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況」https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/000822587.pdfでは、監督指導を実施した実習実施者のうち70.8%において労基法違反が確認されている)、企業内における自浄作用を期待できる状況にはないものといわざるを得ない。
むしろ重要なのは、このような状況が発覚した場合におけるサプライチェーン内部での対応であるものと考える。
技能実習生を受け入れている企業の多くは中小企業であって、しかも、企業内に労働組合が組織されていない場合が多いものと思われる。
そのような場合であっても、サプライチェーン内部での対応を求めるのが、本ガイドライン案であるものと考えている。
そこで、上記の「例」を掲げるのであれば、その「例」に「サプライチェーン内部において技能実習生を雇用する企業で、〔「例」で掲げられているような〕労基法違反の事例が確認された場合、発注元企業は発注先企業との間で速やかに対話を実施し、法令違反に対する是正を求めるとともに、改善のための報告を求める」という内容の文を追加すべきである。
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