EU:人権擁護者の状況に関する国連人権特別報告者、CSDDDに関する欧州司法委員会の報告に人権擁護者の役割が十分に盛り込まれていないと指摘
[HRDs and the progress of the EU’s Corporate Sustainability Due Diligence Directive] 2023年5月15日
[ 英文和訳:ビジネスと人権リソースセンター]
2023年4月25日、欧州議会の司法委員会(JURI)は、EUの「企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD)」案に対する見解を明らかにした。
同委員会おける今回の進展により、指令案の立法化に一歩近づいた。欧州議会の本会議で採決されれば、文言の最終合意を目指す議会、理事会、委員会によるEU三者協議において、これが欧州議会の交渉姿勢のベースとなる。
しかし、欧州委員会によって組織横断的な改良が提案されているにもかかわらず、文言について予想される欧州議会の見解には、企業が人権を尊重し、自らが引き起こすリスクに対処する上で人権擁護者が担う役割が十分に反映されていない。
実際の効果につなげるには、事業活動の影響を直接受けるコミュニティや団体が中心となってプロセスが進められなければならない。人権に影響が及ぶ人々の利益を中核に据えてEUとして立法化を進めることで実際の効果につなげることができる。
つまり、デューディリジェンスプロセス全体において、影響を受ける、あるいはその可能性があるコミュニティや団体、人権擁護者との協議を企業に義務づけ、企業活動によるマイナスのインパクトに抗議して組織化し声を上げる人々への報復のリスクに対処するとともに、権利侵害を受ける人々が救済策と説明責任を求められるようにする必要がある。
その中で、企業とコミュニティの間の「力の不均衡」を認識し、それに対処することも必要となる。
その一環として、人権擁護者への支援も含まれる。
有害な事業活動を前に自らの権利を守ろうとするコミュニティや団体において、人権擁護者は重要な役割を担っている。権利侵害が起きた際に正義を求める中で、ときに市民社会あるいは草の根団体などの連合のメンバーとして、人権擁護者は自ら被害者となって最前線に立つと同時に、直接被害を受ける人々の協力者として立ち上がることも多い。
その結果、人権擁護者は攻撃の標的となっている。ビジネスと人権リソースセンターは、事業関連の活動に参加する人権擁護者に対する攻撃が、2022年だけで555件発生したことを確認し、その中で78人が殺害されている。
EUは、人権擁護者が直面するリスクを認識しており、対外的な人権政策ではその支援を優先項目の一つとしている。また、人権擁護者の支援方法に関する「Guidelines for EU Embassies」を作成する一方、人権擁護者を黙らせることを目的とする戦略的訴訟に関する指令も別途作成準備段階にある。デューディリジェンス指令は、人権擁護者支援のこうしたコミットメントに基づく重要な機会であるが、目の前のリスクが見過ごされてしまっている。
これまで、指令案の作成段階を通じて、文言に人権擁護者について明示する規定を盛り込むようEUに求めてきた。特に関連組織に要請している事項は以下のとおり。
- 企業は、デューディリジェンスを義務づける重要適用範囲を設定するための人権関連文書の一覧に国連の「人権擁護者に関する宣言」を含めることで、人権擁護者に対するリスク評価を確実に行うこと。
- デューディリジェンスプロセス全体でステークホルダーエンゲージメントの実施を義務づけ、エンゲージメントを行う主要グループの一つに人権擁護者を定めること。
- 企業活動によるインパクトに懸念を表明する人権擁護者などに対する報復のリスクを軽減するための措置の実施を、企業および加盟国に義務づけること。
欧州理事会や欧州議会が採用する見解において、人権擁護者に関するこのような規定やその他の重要な項目が反映されるといった期待できる動きがある一方で、革新的なJURIの報告書でさえ必要な内容が盛り込まれていないのが実態である。とりわけ、現在デューディリジェンスを義務づける重要適用範囲が定められているAnnexの文言に国連の「人権擁護者に関する宣言」を明記するとともに、人権保護に取り組む組織としてだけでなく、エンゲージメントを行うステークホルダーとして人権擁護者を明示することが求められる。
欧州議会が自らの見解を最終的にまとめ上げ、三者協議が始まろうとしている今、関係機関は、さらに踏み込んだ文言への変更を進め、人権擁護者の役割とそうした人々が直面するリスクを十分に踏まえた内容とする必要がある。[...]