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ブリーフィング

2021年8月11日

責任ある海外進出を:中国のグローバル投資がもたらす人権への影響

Shutterstock (purchased)

1999年、中国政府が中国の海外投資を促進するための政策、Going Out Policy (走出去)を打ち出して以来、中国企業は大幅に進出先を拡大しています。習近平国家主席が2013年に、中国の「一帯一路」構想(BRI)を発表し、「他国と協力して、平和維持と知識の交換を特徴とする一帯一路の環境に配慮した健全な発展を促進し、より活気的、開放的、包括的で安定した、持続可能な世界経済を構築する」ために取り組むことを約束したことで、中国企業の勢いはさらに加速しています。このような取り組みは、発展途上国の成長にとって必要不可欠である、中国の海外直接投資(FDI)の大規模な拡大を促進しています。こうした海外での開発目標を支援するために、中国政府、国家機関、経済団体は、FDIのための社会的・環境的セーフガードの確立を目的とした政策、規制、ガイドラインのマトリックスを発し続けています。民間企業や国有企業の海外での多様な経済活動を規制するにあたり、これらの文書は、社会的一体性、環境保護、職場や人員の安全を強化することを目指しています。

エネルギー、建設、鉱山・金属業界を筆頭とした中国企業が海外進出を続ける中、特にアジア、アフリカ、南米において、残念なことに社会・環境・人権侵害が増えていることが、市民社会やメディアによって報告されています(セクション3.1参照)。どの国のFDIも、深刻化する権力と富の不平等に対処すると同時に、気候変動に伴う課題に取り組むという対をなす2つの課題を踏まえ、それを解決するために方針を固める必要があります。以上のことから、中国企業にとって、これらの問題に確実に取り組むことが不可欠です。

ビジネスと人権リソースセンター(以下、リソースセンター)は、2013年から2020年にかけて、中国企業の海外での事業活動に関連した679件の人権侵害申し立てと、これらの申し立てに対する102社の企業からの回答を記録しました。本報告書は、データをさらに分析することで、中国投資の受入国の市民社会組織が、中国企業の責任ある事業活動に対するアドボカシー活動のために十分な情報に基づいた決定を行えるよう、支援することを目的としています。また、本報告書は、データと分析結果を示すことで、中国企業、投資家、中国政府、および投資先国政府が、中国の国際経済協力に関する開発コミットメントや、長年にわたって確立されてきた責任ある企業行動のガイドラインを履行するため、さらなる行動を起こすことを促します。

主な調査結果

中国の海外での事業によって、多くのポジティブな発展が見られます。その一方で、責任ある大国になるという中国の目標は、以下の点が改善されない限り、達成されない可能性があります。

ガバナンスが脆弱で中国の投資が盛んな国における高い人権侵害

  • 記録された申し立ての数が最も多いのはミャンマー(97件)で、次いでペルー(60件)、エクアドル(39件)、ラオス(39件)、カンボジア(34件)、インドネシア(25件)となっています。中国はこれらの国の主要な投資・貿易の相手国です。
  • ミャンマーでの事業に関連する人権問題の多くは、軍事クーデター以前に発生しており、懸案事項となっています。ミャンマーでは現在も問題が深刻化している一方で、この紛争影響地域においてさらに多くの中国からの投資が承認される可能性があります。この状況を鑑みて、企業は人権に関する国際基準と責任ある企業行動へのコミットメントを確実にするために、強固な人権デューディリジェンスを実施する必要があります。

採掘・建設業における高い人権侵害の疑い

  • 我々のデータによると、人権リスクが特に高いのは、金属・鉱業(35%、236件の申し立て)、建設業(22%、152件)、化石燃料エネルギー(17%、118件)の分野です。中国の再生可能エネルギー分野における海外投資は、中国がパリ協定の目標達成や、グリーンBRIの構築を公約していることから、勢いを増しています。しかし、再生可能エネルギー分野での人権リスクも顕著で、87件(13%)の申し立てが記録されています。

企業の透明性・説明責任の欠如

  • リソースセンターは中国企業に対して、海外事業に関する人権申し立てについての回答を求めました。開放性と透明性を約束しているにもかかわらず、回答率は24%と非常に低い割合でした。これは、リソースセンターのアジア企業全体の回答率(53%)をはじめ、日本(68%)、インド(47%)、インドネシア(41%)など、主要経済圏の企業からの回答率を下回っています。
  • 中国の銀行からの回答率は、僅か5%という結果でした。20件の申し立てに対して回答は1件のみであったことは、中国の銀行が、市民社会からの申し立てに応じることや、自らの影響力を把握すること、社会的・環境的なパフォーマンスを改善させることに消極的であることを示しています。
  • 経済団体や政府機関は、責任ある企業行動を促進するためのガイドラインやルールを作成しており、これらは海外でのビジネス活動に影響を与えています。しかし残念なことに、我々のデータによると、このガイドラインとその実施は、十分に効果的ではありません。中国企業はコミュニティや労働者の権利を無視し続けているからです。さらに、今回のデータで記録された申し立てでは、情報開示や環境影響評価 (EIA) が不十分なケースが多く見られました(31%)。次いで、土地の権利の侵害(29%)、生計手段の喪失(28%)、労働者の人権(19%)、汚染と健康への脅威(18%)となっています。

ポジティブな発展

  • 再生可能エネルギー企業の回答率(36%)は、最も高かった一方で、これらの回答すべては水力発電企業からで、太陽光発電や風力発電企業からの回答は得られませんでした。この回答率は、アジアの企業の平均と比べるとまだ低いですが、中国の企業の平均よりは高い割合です。中国の再生可能エネルギー企業に対して、クリーンエネルギーへの「公正な移行」への貢献の強化が期待されます。
  • 様々な証券取引所に上場している企業の回答率(27%)は、上場していない企業(18%)と比較すると高いという結果が出ています。証券取引所からの様々な要求(情報開示やガバナンスに関するものを含む)、投資家の影響力、上場企業に対するより高いレベルの監視といった点が、これらの企業がより頻繁に市民社会と関わるよう、説得する役割を果たしているのかもしれません。
  • 国有企業(その多くが上場企業)は申し立てに返答する傾向が強く(27%)、民間企業(16%)に比べて高いという結果が出ています。

主な提言

本報告書に示された課題を考慮すると、企業、経済団体、中国政府、投資先国にとって、海外で事業展開する中国企業の規制環境とその実施をさらに強化するための大きな機会があると考えます。法規制や包括的なガイダンスと実効性のある実施体制を基礎に、以下3つの主要アプローチを通じて、国やセクターを問わず高まっているリスクへの対応を優先して行うべきです。

  1. 透明性

中国企業は以下を行う必要があります。

  • 透明性と情報開示に関する強固な組織の方針を策定し、実施すべきです。これには、プロジェクトや投資において、検討、実施、終了・終結の各段階における関連情報を公開する義務が含まれます。
  • デューデリジェンスのプロセスを公にかつ透明性をもって報告し、影響とリスクの評価結果を、適切かつアクセス可能な形式で開示すべきです。
  • 影響を受けるコミュニティや市民社会と積極的に関わり、リスク緩和計画や是正措置をはじめとする情報を、公にかつ透明性を持って伝えるべきです。中国の銀行、政策銀行や商業銀行を含む金融機関は、アジアインフラ投資銀行や世界銀行と同様、提案済みあるいは現在進行中の投資やプロジェクトに関して、検索可能で包括的かつ最新のデータベースを作成すべきです。このデータベースには、プロジェクトレベルの情報や、環境・社会・人権影響評価の最終報告書、連絡先などが含まれます。また、証券取引所は、上場企業に対して同レベルの情報開示を求めるべきです。中国政府は、ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)を策定すべきであり、これには、海外での経済発展に関する政策や規制に、人権をどのように組み込むかについて、さまざまなレベルの議員を指導するセクションを含む必要があります。

2. 人権デューディリジェンス

中国企業は以下を行う必要があります。

  • プロジェクトの開始、投資、調達の実行前、プロジェクト期間中に渡って、上流と下流を含むバリューチェーン全体における、顕在化している、そして潜在的な人権と環境のリスクを継続的かつ定期的に特定し、評価すべきです。
  • 事業や購買慣行の改革、ビジネスパートナーやサプライヤーとの積極的かつ有意義な対話、必要に応じて影響力を高めるための具体的な取り組みなど、ビジネスによる負の影響を防止および緩和するための措置を講じるべきです。
  • デューディリジェンスのプロセスおよび救済のすべての段階において、ステークホルダーとライツホルダーを積極的に参加させ、協議、および関与させるべきです。そして、彼らの参加によって生じる可能性のあるリスクや報復行為に対処します。
  • 紛争影響地域で事業を行う、または事業上の関わりを持つ場合には、人権に関するデューデリジェンスを強化し、そのリスクに見合った追加措置を講じるべきです。特に、エネルギー(化石燃料)および再生可能エネルギー分野の企業団体は、透明性と人権デューディリジェンスに関するガイドラインを作成するとともに、これらのガイドラインの現場での実施を強化するために、企業に対し能力開発トレーニングを提供すべきです。さらに中国政府は、中国企業が義務的に人権デューディリジェンスを実行するために、上記の要件を備えた法律の導入を検討すべきです。受入国の政府もまた、義務的な人権デューディリジェンスと包括的な影響評価に向けた要件を立法し、改善し、実施すべきです。

3. 苦情処理メカニズムと救済へのアクセス

中国の企業および金融機関は以下を行う必要があります。

  • 権利侵害に対して声を上げる人権・環境擁護者や内部告発者のために、強固な保護措置を含む、事業レベルの効果的な非司法的苦情処理メカニズムを確立すべきです。
  • 企業は、人権への負の影響が証明されている場合、少なくとも自らが引き起こす、あるいは加担したものについては救済を提供し、協力すべきです。中国企業を監視する業界団体や政府機関は、業界全体の独立した苦情処理メカニズムを確立するのに適した立場にあります。中国政府は、ビジネスに関連した権利侵害行為に対して効果的な救済を提供するために、司法および非司法のメカニズムを強化すべきです。受入国の中国大使館は、苦情を受け付け、処理するために、能力開発と部門と制度を設置することを検討すべきです。同時に、受入国は、影響を受けた個人や市民社会組織のために、アクセス可能で独立した苦情処理メカニズムを構築するよう、企業に要求することも検討できます。