EU:各国がエネルギー憲章条約を脱退、EUはリスクについて警鐘を鳴らす
[Brussels pleads with countries to stay in the Energy Charter Treaty], 2022年11月4日
[ 英文和訳:ビジネスと人権リソースセンター]
近頃では、エネルギー憲章条約(ECT)は気候にとって好ましいものだと真顔で主張する人はほとんどいない。同条約は、「過去の遺物」、「汚いエネルギークラブ」、強欲な企業のための「気候対策を妨げる障害物」などいろいろな呼び方をされている。しかし、この条約を公然と非難していた人々は、今、同条約を擁護しなければならないという困った状況に陥っている。フランス、スペイン、ポーランド、イタリア、オランダなどに対して、脱退の決定を撤回するよう懇願しているのだ。
ECTは、1990年代初頭、冷戦終結の頃に考案された条約だ。目的は、東欧に誕生した新しい民主主義国を、投資家が信用できるようにすることだった。これらの国々の旧共産主義政権は、突然に企業を国有化したり、事業を中止したりするのが常だった。ECTは、投資先の国が投資を脅かすような政策変更をした場合に、国内裁判所を飛び越えて特別な国際法廷に当該国を提訴する権限を投資家に与える。だがECTは元々の意図をはるかに超えるものに変わってしまった。今、この条約は、気候対策を目的とするエネルギー政策の変更を理由として条約加盟52か国を提訴するために、企業に利用されている。
ECTは、投資家対国家紛争解決(ISDS)において最も利用される条約になった。結果として損害賠償は記録的な数字となり、政府の費用は何百万ドルにものぼると、持続可能な開発に関する国際研究所(IISD)は指摘する。注目すべき例の一つが、石炭火力発電所の稼働停止を計画するオランダ政府に対し、ドイツの電力大手RWEとユニパーがECTのもとで起こした訴訟である。2022年5月にサイエンス誌に掲載された研究によると、化石燃料事業を制限する法律を施行する国々に対して石油・ガスの投資家が行使する法的要求のために各国政府が要する費用は、合計で3400億ドルに達する可能性がある。これは2020年に世界全体で費やされた公的気候変動対策資金の額である3210億ドルよりも多い。実際の訴訟よりもさらに問題なのがいわゆる「規制の萎縮」、つまり告訴への恐れから各国政府の化石燃料撤退の動きが鈍ることだ。