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記事

2021年10月18日

著者:
Casey O’Connor-Willis, NYU Stern, Center for Business and Human Rights

新報告書、労働リスクの特定と低賃金労働の改善における投資家の役割と責任を強調

[ 英文和訳:ビジネスと人権リソースセンター ]

近年、より社会的に配慮した投資戦略に対する個人及び機関投資家の関心が高まっている。2020年末時点で、従来の財務分析に加えて、環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素を考慮したファンドに、全世界で35兆ドル以上が投資されている。ある試算では、ESG投資が全世界の運用資産の3分の1を占める日も近いとされている。

しかし、これらのファンドの「S」あるいは社会的側面は、これまで限定的で、明確ではなかった。これは、企業が社会に与える影響が膨大かつ多様であることが一因となっている。研究者、市民社会の擁護者、投資家は、何が「良い」社会的パフォーマンスを構成するのかについて、ほとんど同意していない。また、企業の社会的影響に関するデータが十分でないことも多く、そのため、アセットオーナーやマネージャーは、これらの問題が企業やポートフォリオの財務パフォーマンスにどのように関連しているかを理解することが妨げられている。

これを補うために、ほとんどの「S」指標は、企業の中核的なビジネスプラクティスや社会への実際的影響ではなく、企業の内部プロセスやポリシーを評価している。このような分析では、企業の行動やリスクを有意義に評価することができない。このような課題と、地球温暖化がもたらす喫緊のリスクがあることで、ほとんどのESGファンドは圧倒的に「E 」に焦点を当てている。最近のある調査によると、ESG分析を用いて投資された米国および欧州の資産の68%は、気候変動などの環境問題を対象としたファンドであった。

しかし、新型コロナウイルスの流行により、社会問題、特に所得格差の拡大や、我々が利用している多くの商品やサービスを提供している低賃金労働者の苦境が注目されている。ESGの観点からは、主にCEOの報酬を抑制することや、企業の直接雇用者の多様性、健康、福利厚生を改善することが注目されている。しかし、これらは期待できる動きではある一方、国内およびグローバルなアウトソーシングによって、現代の多くの企業が依存している労働力が根本的に再構築されていることは十分に着目されていない。

[...]ESG投資への需要の高まりは、資産運用会社にとって、企業が目先のコスト削減と世界各地でのディーセントで安全な雇用の創出との間でより良いバランスを取ることを促す機会となっている。しかし、そのためには、これまで「S」の分析の量と質を制限してきた課題に対処する必要がある。ファンドマネージャーとESGデータプロバイダーは、社会的パフォーマンスを評価する上でよりクリエイティブになり、企業の収益が違法な労働慣行、不十分で一貫性のない給与、慢性的な残業、安全でない労働条件に依拠している可能性をより直接的に見なければならない。そのためには、外注労働者を含めた企業の人件費に関する情報をより多く入手する必要がある。最後に、労働者の待遇を改善することは、企業と社会の両方に多くの長期的な利益をもたらす可能性があルガ、これらの利益を実現するのは無料ではない。環境面やガバナンス面での改善とは異なり、低賃金労働の質の向上には持続的なコストがかかると考えられる。ESGファンドに真の「S」を求める投資家は、より控えめなリターンでそれを支払う覚悟が必要となる。「S」を修正するには、アセットオーナーやマネージャー、投資コンサルタント、ESGデータプロバイダー、政府の参画が必要となる。[...]