米国:ボルチモア港の衝突事故、海運業界の数年にわたる労働権・安全問題が浮き彫りに
2024年3月26日、全長289メートル(948フィート)のコンテナ船「ダリ」が、スリランカに向かう途中、ボルチモア港を出港した直後に動力を失い、フランシス・スコット・キー橋に衝突し、橋が崩落する事故が発生した。当局が船のメーデーコールから衝突までの2分間に一部の通行車両を迂回させ、人命を救うことができたものの、数台の車と人がパタプスコ川の冷たい水に転落した。崩落当時、橋の定期メンテナンス作業を行っていた6人の移民建設労働者が行方不明となり、崩落から24時間以上が経過した時点で死亡したと推定された。労働者はエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ出身の30代から40代の男性だった。
ガーディアン紙とニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、ダリは2016年にベルギーのアントワープ港を出港する際に衝突事故を起こしたことがあり、昨年のチリの港での検査では「推進機と補助機械」に関する欠陥が見つかっていた。また、ニューヨーク・タイムズ紙は、この船を所有するグレース・オーシャン社が以前、他の船で賃金の搾取や、労働者が契約上の合意よりも何カ月も長く乗船させられるなどの労働権侵害に関連していたと報じた。衝突時、ダリの乗組員は22名で、全員がインド国籍だった。負傷者はいなかったという。ニューヨーク・タイムズ紙によると、国家運輸安全委員会の事故調査において、疲労を含む乗組員に関するあらゆる要因が考慮されるという。
贈収賄防止、コンプライアンスやグッドガバナンスに特化した団体Traceの創設者であるアレクサンドラ・ワラージ氏によれば、船舶の所有構造は、不透明性を最大化し、説明責任を最小化するように設計されているという。「この分野には優れた企業もあるが、海運業はコンプライアンスと説明責任の観点から見ると、西部開拓時代のようなものだ。また、コンプライアンスや説明責任が優先されていない場合、環境基準や労働慣行、安全衛生といった問題も重視されないことが多い」とニューヨーク・タイムズ紙に述べた。
衝突事故後の3月、ワシントン・ポスト紙は、移民労働者を雇用していたブラウナー・ビルダーズ社を名指しした記事を発表した。
死亡したと推定される労働者の遺族は、その労働者は不法滞在者であり、米国市民がやりたがらない仕事をすることで経済に貢献していたと語っている。記事では、不法滞在者が強制送還のリスクを恐れて、しばしば医療などの支援を求めることを恐れていることを強調している。ブラウナー・ビルダーズ社の取締役副社長によれば、同社は不法滞在者を雇用しておらず、労働者は労働組合に加入していないが、「充実した福利厚生」を受けており、労働者の家族も「十分なケア」を受けることができるという。同社は、どのような支援や金銭が提供されるのかという質問に対しては回答を避けた。
記事によれば、ボルチモアとワシントンの建設労働者の39%は移民であり、ヒスパニック系の労働者は、特に建設業において死亡率が高いという。また、メリーランド州を拠点とするラテン系移民擁護団体カーサのインタビューは、弱い立場の労働者を保護するためのさらなる法整備の必要性を強調している。