エネルギー憲章条約(ECT)は、1998年に発効した国際協定で、現在50カ国以上が署名しています。 日本は、1995年6月に条約に署名し、2002年7月に締約のための国会承認を得たことを受け、同月23日に受諾書の寄託を行いました(同年10月21日に日本について発効) 。ECTは、エネルギー分野の国際投資家に対し、投資価値を損なう政策について政府を提訴する権限を与えています。裁判は、国内の裁判所ではなく、仲裁裁判所によって行われ、事実上、エネルギー企業版のISDSと言えるでしょう。
つまり、企業利益が保護される一方で、人々と地球の利益のために政府が立法する能力が削られてしまうのです。特に、ECTは、化石燃料の使用を段階的に削減する政策に異議を唱え、実現を阻止する手段をエネルギー企業に提供しており、国際的な気候変動対策の大きな障害となっています。
化石燃料からの脱却を目指す国々は、化石燃料会社からの大規模な訴訟に直面し始めています。たとえば、ドイツのエネルギー企業RWEは、オランダ政府の石炭火力発電廃止計画をめぐり、20億ユーロの支払いを求めて提訴しています。訴訟が成功しない場合でも、国家は法的手続きに伴う極めて高い費用を負担しなければなりません。
- ECT訴訟の件数は大幅に増加しており、ECTの下でこれまでに行われた136件の仲裁のうち半数が2015年以降に起きている。
- ECTの下で、政府は520億ドル以上の損害賠償を公的資金から支払うよう命じられたり、それに同意したりしている
- ECTを利用する投資家の97%が化石燃料企業であった
加盟各国はECTを脱退することができますが、加盟のルール上、脱退後20年間は投資家から訴えられる可能性が残されます。それにもかかわらず、2022年10月と11月に、フランス、ドイツ、スペインを含む多くの欧州諸国がECTから脱退する意向を示し、条約を劇的に弱体化させました。2023年2月、欧州委員会は、ECTに残留することはEUの気候変動目標を「明らかに損なう」とし、ECTからのEU諸国の離脱を支持すると表明しました。
一方、ECT事務局は、アフリカ、アジア、南米の国々に条約への加盟を促し、加盟国を拡大する意向を表明しています。現在進められているECTの改訂では、化石燃料の投資家に提供されていた保護措置を10年間の移行期間中に段階的に廃止していくことが合意されていますが、気候活動家からは不十分だという批判の声が上がっています。