グローバルサプライチェーンがますます拡大し複雑化するにつれて人権および労働権への関心が高まったことで、多国籍大企業は民間監査人を雇い自社のサプライチェーンの状況を監視したり、下請け企業から証明書の提出を求めるといった形で独自の社会的監査を実施するようになりました。国連ビジネスと人権に関する指導原則の導入、そして、このことで人権デューデリジェンスが企業活動におけるグローバルスタンダードとされたことに伴い、社会的監査は自社がデューデリジェンスの義務を果たしているかを示すためにますます導入されるようになりました(人権デューデリジェンスに関する追加情報や指導についてはこのセクションを参照)。
しかし、社会的監査はグローバルサプライチェーンにおける人権侵害を発見するにあたって有効ではなく、現行枠組みが労働者にとって意味のないものとなっていると様々な報告書が懸念を示していることからこのような傾向には注意が必要です。バングラディシュのラナプラザ崩落事故やパキスタンのアリエンタープライズ火災事故といったケースは、どちらも監査が実施された直後に発生しており、衣料品産業における社会的監査の失敗を悲劇的にも示しています。
女性や児童、移民そして難民労働者などを含む弱い立場に置かれた労働者に対する特にこのことの与える影響についての研究が行われています。例えば、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、衣料品産業における監査は職場での性差別やセクハラを見過ごしていることを指摘しました。ビジネスと人権リソースセンターによる、トルコの縫製工場で働くシリア難民の実態を明らかにした報告書もまたこの問題を指摘しています。農業や食品、エレクトロニクスといったその他の産業で働く労働者も同様に社会的監査の欠点を浮き彫りにさせ、現行の社会的監査の枠組み自体がその目的に沿って実行されているのかという根本的な問題を提起しています。
しかし、その中でも様々な改革案やオルナタティブが示されています。それらは例えば、監査人責任や労働者主導による社会的責任モデル、義務的人権デューデリジェンス、そして異議申し立てメカニズムの改善といったものです。このポータルでは、社会的監査の欠点に関する研究や様々な視点を取り上げ、監査が失敗に終わった事例を収集および紹介し、企業を含むアクターが現行の社会的監査に代わる施策を考えるための材料を提供します。
私たちは、社会的監査を根本から改革するための選択肢や現在の実践を乗り越えるためのオルタナティブなモデルまで、これらに対するすべてのステークホルダーによる指摘や視点を取り込んでいます。
このポータルは、ドイツ国際協力公社(GIZ)の資金提供を受けてビジネスと人権リソースセンターおよびクリーンクローゼスキャンペーンによる協同で作られたものです。
特集コンテンツ
労働者主導による社会的責任ネットワーク
労働者主導による社会的責任モデルのための資料
マルチステークホルダーイニシアチブ再考
マルチステークホルダー・イニシアチブ・インテグリティによる報告書およびブログシリーズでは、自主規制の限界について批判的に考察することや、人権を保障するにあたってより効果的な戦略を考えることを促進します。
労働者中心のデューデリジェンス
KnowTheChain:電子機器サプライチェーンにおける強制労働リスクへの対応 ー 企業の実践例
コメンタリー:現代奴隷についての企業の夢物語を信じるのはやめるべき
労働者が自身の問題を解決することができるための支援を行うべきだとジェネビーブレバロンは主張します。
なぜアパレルブランドによる自社サプライチェーンを監視する取り組みが有効ではないのでしょうか。
コーネル大学産業・労使関係学部による学術報告は、監査のほとんどは信用できるものではなく、強制力のあるデューデリジェンスや労働者参加の回路が必要であると訴えます。
ポジションペーパー:監査や認証のための人権
欧州憲法および人権センターや「世界のためのパン(Brot Für Die Welt)」、ミゼレアー(Misereor)は、強制力のあるデューデリジェンスの認証の可能性について批判的に検討します。
ケーススタディ
パキスタン:アリエンタープライズ工場
NGOの連合体はイタリアの連絡窓口とともに、社会的監査企業RINAに対して、アリエンタープライズ工場の危険性や労働者の権利侵害を見過ごした疑いで異議申し立てを申告しました。
ドイツ:社会的監査を改革する必要性
TUVラインランドに対して行われたOECDの最終報告書における縫製産業での社会的監査を改革する必要性について、ドイツ経済関係省が理解を示しています。
ロブロウおよびビュローベリタス訴訟
ラナプラザ崩落事故の社会的監査に関する法的責任を追及されたロブロウおよび社会的監査企業ビュローベリタスに対する訴えをカナダ裁判所は棄却。
ブログシリーズ
専門家が解決策および根本的改革案だけでなく、社会的監査を超えたデューデリジェンスのあるべき姿について検討します。